僕達の願い 第32話


ルルーシュを信じられず裏切った事を後悔し、自分の犯した罪を悟り懺悔した玉城。
自分の罪を棚に上げ、裏切ったのはゼロだと糾弾し、全ての罪を押し付けた扇たち
水と油。
共に居られるわけがない。
玉城にとって、扇たちの口から語られる話はどれほど不愉快なものだっただろう。
否定すればギアスに操られていると、関係のないルルーシュのせいにされてしまう。
だから何も言わずに姿を消し、こうしてC.C.のいる場所、ゼロの元へ戻ったのだ。
電話の向こうから玉城の嗚咽の混じった声が聞こえていたが、既に言葉として成立しておらず、これ以上話すのは無理だと判断した吉田は「ありがとう玉城。続きはまたいつか話してくれ」と告げると電話を切った。
ふと視線を横に向けると、吉田の言葉と反応である程度察した井上は眉を寄せて難しい顔をしていた。
携帯をC.C.に返すと、彼女はこちらを試すような視線を向ける。

「ありがとうC.C.。いろいろ解ったよ。やっぱり玉城の話の方が、俺は納得できる」

その言葉に表情こそ変わらなかったが、纏う空気が少し和らいだ。

「そうか。で、どうするつもりだお前たちは。どうやら玉城はお前たちには扇の傍にいてほしいそうだが?」

あくまでもそれを前提として玉城が話したことを二人に思い出させる。


「正直、今の扇たちとは一緒にいたくはないが・・・どうして玉城は俺たちに扇の傍にいろっていうんだ?」

その意味がわからないと吉田は首を傾げ、井上を伺うが、こちらもわからないというように首を振った。

「監視しかないだろう。扇は何をするか解らないからな」

その何かを行う時、こちらに情報を流せる者を傍に置きたい。
スパイになれという内容に、そういうことかと吉田はようやく理解した。

「まあ確かに、大使館に電話をかけたり、行動力は凄くなっているが・・・」

C.C.はそう言う意味では無いと首を振った。

「お前たちが解るとしたら、ブラックリベリオン前か・・・ああ、いい話がある。ブリタニアの軍人であり純血派の女・・・シンジュク事変でもKMFに乗り日本人を虐殺していた者とブラックリベリオンの前から関係を持ち、ゼロを裏切ったあの日はその女を証人として連れていたんだ。まったく、どうやって黒の騎士団の旗艦に乗せたんだか。ルルーシュを追い出した後、ゼロの私室に二人で住み始め、しっかり女を孕ませているしな。ああ、ルルーシュの死後結婚しているからな、その女と」

淡々とした口調で話された内容に、二人は目を見開いた。

「はあ!?なんだそりゃ!?って何時からだ!?」

俺が死ぬ前からブリタニアの女と!?

「たしか、ナリタ後に日本解放戦線の片瀬とかいう奴が逃げる手助けをしに行った時だ。ほら、覚えてないか?タンカーが爆発した、あの戦いの時だ」
「何それ!?じゃあ、あの時から既にブリタニア軍人と付き合ってたの!?最低!!もしかしてブリタニア側のスパイで、騎士団の情報を流してたの!?」

裏切り者はどっちよ!!
ブリタニア人は信用できないと口にしながら、ブリタニア人の彼女がいたのだ。
しかも敵であるブリタニア軍人の純血派。

「いや、正確には違うな」

激昂する二人に、C.C.は言いにくそうに口ごもらせた。

「扇を庇うわけじゃないが、ブリタニア側のスパイをしていたわけじゃない」

その言葉に、二人は互いの顔を見合わせた。
スパイじゃないのにブリタニアの軍人と?

「その戦闘で負傷した女を見つけ、家に連れ込んだら女は記憶喪失で、これ幸いと情婦にしただけだ」
「「はあ!?」」

それはある意味スパイより酷い内容だった。
戦闘で負傷した敵の、しかも女性を自宅に連れ込み監禁し、記憶がない事が解ると、情婦として傍に置いた。それは人間として最低な行為だろう。
吉田は思わずエロゲかと思ったが、口には出さなかった。

「扇が手作り弁当を食べているのを見たことはないか?」

隠れて食べてたから流石に知らないか?と尋ねると「あの弁当はそういう事だったのか」と吉田は呟いた。

「じゃあ、記憶の無い女性と結婚したの?」
「いや、ブラックリベリオンで女は記憶を取り戻し、記憶の無い間、散々自分を敵の軍人と知りながら玩んだ扇を、アッシュフォード学園で見つけ、撃ったんだ」
「ちょっ、ちょっとまってくれ」
「扇さんの負傷って、痴情の縺れって事!?」

扇があの日何者かに撃たれ負傷した事は聞いていた。そのせいで余計戦場は混乱したのだ。自分たちの死の原因の一端を担っていると言っていい。そうだ、誰かが通信でブリタニア人の女に扇が撃たれたと言っていた。

「そうとも言うな。あの女は危険だと、こちらの手の者が排除しようとしたが、扇がその女を庇ったせいで見失った。それがゼロを裏切る少し前だ。おそらくその時、寄りを戻したのだろう」

信じられないだろう?と呆れた口調でC.C.は本当に不愉快そうな顔をしていた。
信じられないというよりも、信じたくない話だった。ちなみにスタイル抜群の巨乳美人だとC.C.が付け加えたため、井上の目はますます鋭くなり、吉田は完全にエロゲとかそっち系の展開だろと頭を抱えた。

「C.C.・・・君からも話を聞いても?」

しばしの沈黙の後、複雑な表情で吉田がそう口にした。

「私も嘘をつくかもしれないぞ?ルルーシュのようにな」
「それでも、話しを聞かせてくれないか」

どうせ扇の話も嘘のようなものだから判断材料が欲しいと、真剣な目で訴えてくるので、仕方ないなとC.C.は手を出した。対価としてピザパンをよこせと、既に冷めてしまったピザパンを要求したのだ。井上がピザパンを二つ渡すと、C.C.は一つを自分の袋に入れ、一つを齧りながら、一度しか話さないからな。と念を押してから口を開いた。

「最初に言っておくが・・・私は、魔女だ」
「・・・は?」

突然の告白に、吉田はマヌケな声を出した。

「ギアスという不可思議なチカラがあるなら、魔女ぐらいいてもおかしくはないだろう?」
「いや、まあ、そうだな。人を操るギアスなんてものがあるんだからな・・・」

C.C.の意図がわからず、吉田と井上は顔を見合わせた。

「憶えておけ、魔女の言葉は猛毒だということをな」

私の話を聞く以上、その毒に侵され元の状態には戻れなくなるぞ? 真実を語るとは限らない、お前たちをただ惑わすだけかもしれない。それでもいいのかという、脅すような、からかうような言葉に、それでも話して欲しいと二人は頭を下げた。

「・・・玉城から何をどこまで聞いたかは知らないが、簡単に言うとだ。皇帝は、母を失った幼い兄妹を日本に捨てた。賢い兄はこの国で体の不自由な妹を守り生きていたが、弱者である妹が安心して暮らせる優しい世界を作ることを決心し、ゼロとなった。早い話がブリタニアを倒すと言う事だ。そして、私はそんなゼロの共犯者だった」

先ほどの玉城とのやり取りで、恐らくこの話はしているだろうとあたりをつけ簡単に説明する。そこまではいいか?とC.C.が尋ねると、吉田は頷いた。そこまでは玉城の話とほぼ同じだ。

「間の話は省くが、扇とシュナイゼルの裏取引の結果、ゼロという駒を使えなくなったルルーシュは、シャルルを倒し皇帝となった。ちなみに当時の評価は若き賢帝や正義の皇帝、だ。なにせあの独裁者シャルルの治世を全面否定し、身分制度を廃止、ブリタニアを根本から変えていたからな。植民地も解放されるんじゃないかと皆期待していた。名前と立場は変わったが、あいつはゼロだからな、目指すものは変わらない。・・・あの頃はあいつの最愛の妹がフレイヤに巻き込まれて死んだと思っていたから、妹が夢見ていた優しい世界を実現し、妹に捧げようと、あいつは必至だった」

C.C.の語る話は初めて聞くことばかりで、賢帝や正義の皇帝と呼ばれていた頃の話など聞いた事がないと、二人は思わず顔を見合わせた。だろうな、とC.C.は既にチーズが硬くなったピザパンをパクリと口にし、ジュースで喉を潤すと、再び口を開いた。

「悪逆皇帝と呼ばれたのは、超合衆国会議でだ。超合衆国は、ブリタニアも参加させてやると上から目線でルルーシュを国外に呼び出した。断るのも問題かと招集には応じ、共を連れず一人で参加するようにという理不尽な命令にも馬鹿正直に従い、たった一人で会場に着いたルルーシュを黒の騎士団は監禁した。四方を壁に囲まれた場所で、扇たちに罵倒され、それを知った騎士が当然救出。その時、帝都ペンドラゴンにフレイヤが投下され、100kmにわたり消失。億を超える国民が一瞬で消え去った」

フレイヤ。
自分たちが死んだ後に開発された最悪の大量殺戮兵器。
これもルルーシュが使ったと扇は言っていたが、いつもどこか歯切れが悪かった。
ルルーシュが使ったのではなく、正しくはルルーシュに使ったものだから、口裏合わせが上手くできていなかった玉城の前で堂々と話すことが出来なかったのだろうか。

「頭のいいルルーシュは即座に事態を把握し、悪逆皇帝と呼ばれた事を利用して各国代表をすぐに捕縛。あの場で最も安全な自分の旗艦に人質という名目で保護して危険区域から離脱した。次の標的が彼らだと判断したからだ。その後現れた天空要塞ダモクレスには、シュナイゼルの傀儡となった死んだはずの妹が乗っており、99代皇帝は自分だと、ルルーシュに宣戦布告した。ブリタニアの皇位継承権争いが始まったわけだ。新たな治世目指すルルーシュと、シャルルの時代と同じ治世を望む妹。予想外だったのはダモクレス側に、なぜか黒の騎士団が参加した事だ。確かに代表は人質という名目でルルーシュ側にいるが、黒の騎士団としてではなく、ダモクレス側と共闘はおかしいだろう?あれにはルルーシュも呆れて、植民地政策を肯定するつもりか!と、怒鳴っていたな」

ルルーシュに世界が支配させるわけにはいかない。負ければ世界はルルーシュのギアスで操られてしまう。そう聞いてはいたが、それが皇位継承権争いに関わる話とは聞いていなかった。
ましてや植民地支配を肯定する側だったなど、信じられない話だ。
何のために戦っているのか。それは植民地となり、日本という名を奪われたこの国を取り戻すためだ。その根本が覆る戦いだ。

「だが、ルルーシュと騎士、そして兵士達の活躍で黒の騎士団を蹴散らし、難攻不落と思われたダモクレスを撃破。大量殺戮兵器も手中に収めた。この時点でルルーシュは不本意ながら世界征服を果たした事になる。だが、ルルーシュの目的はあくまでも”妹のための優しい世界”。戦争のない、平和な世界だ。妹が生きていた事は何より喜ばしい事ではあったが、再会した時すでに彼女は億の命を奪った大罪人となっていた」

帝都ペンドラゴンに落とされたフレイヤ。
騙されたとはいえ、自国の民が住まうその場所へ大量殺戮兵器を投下する許可を出したのは、死んだはずの最愛の妹だった。歓喜と絶望が彼の心を満たしていた。

「だから頭のいい男はそこで一つの答えを出した。皇帝ルルーシュこそが悪だったのだと歴史に刻まれるようにすればいいと。そうすれば、敵だった者は全て正義となる。妹の罪も全てこの身に背負えばいい。全ての憎しみをこの身に集め、本当の悪逆皇帝となろうと。・・・そう、この時、悪逆皇帝ルルーシュが誕生したんだ」

それは、先ほど玉城から聞いた話に似ていた。
カレンを守るため悪魔のような笑みを浮かべ、笑ったと言うゼロに。
守る者のためならば、その身を悪に変えることを厭わない。

「そして、ルルーシュがゼロに討たれた時、ゼロの正体を知るものは皆その真実に気がついた。ギアスという名の疑心暗鬼が消え、全てを悟ったがもう遅い。フレイヤの罪も、戦争の罪も、憎しみも、黒の騎士団の裏切りでさえ、全てルルーシュがその身に抱え、地獄へと持って逝ってしまった。大罪を犯しながらも正義とされた者たちは、ルルーシュの残しだ最後の奇跡を、あいつの望んだ平和で優しい世界を維持しなければと、それがせめてもの償いだと言って頑張っていたよ」

本当に、馬鹿な男だよ。
頭がいいのに、使い方がおかしいんだ。
そう言ったC.C.は、今までとは一変し、まるで聖母のような優しく穏やかな笑みを顔に浮かべていた。

「「・・・・」」

あまりの内容に、二人は空いた口が塞がらなかった。
今まで扇たちから聞いていた話とは異なる内容。
だが、玉城の話によく似た内容。
本当か嘘かも解らない、まるで物語のような話。
全てを信じるのは難しい。
だが。




盤上に立つのは2つの黒の王
王は互いにその姿を見つめていた

片方は憎悪と畏怖に顔を歪ませ
片方は凪いだ瞳で観察する

片方は自らを正義と名乗り
片方は自らを悪と名乗った

どちらも虚構に濡れ、真実に口を閉ざす愚かな王
王の後ろには、愚かな王に従う愚かな駒達が控えていた

そこに魔女が現れ、罪に嘆く兵と共に毒の言葉を投げかけた。
それは命を奪う猛毒か、それとも毒を打ち払う解毒薬か。
嘘と真が混在する魔女の毒がその場に充満する。

そして

正義を名乗る王の駒が音も無く盤面から転げ落ち
悪と名乗る幼い王の元に二つの駒が現れた

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